実施計画書
1.課題
電子血圧計を用いた客観的な高血圧治療に関する研究:多施設前向き無作為オープン結果遮閉試験 (Hypertension Objective Treatment based on Measurement by Electrical
Devices of Blood Pressure Study – HOMED-BP Study)
2.研究等の概要
目 的:本研究は臨床内科医の自主的研究として行われる本邦における降圧薬を用いた初めての大規模介入試験である。本研究は降圧薬の大規模試験の必要条件である無作為二重盲検試験の倫理的側面を克服し、無作為オープン試験により、二重盲検試験と同等な精度と信頼性を得るためのシステムを用いている。本研究ではICメモリーに記憶された自己測定血圧値を端末装置からホストコンピューターに転送し、ホストコンピューターの降圧薬療法に関する判断を受け取る端末装置と、このホストコンピューターの情報受信、判断、命令により介入試験を行うものである。本申請は、東北大学附属病院をはじめとする分担者の所属する医療機関及びその関連施設において、介入調査の予備試験及び、その後行われる多施設オープン試験のための倫理審査申請である。
現在本邦においては、3000万人の高血圧患者があり、約1000万人が降圧薬を服用しているが、降圧薬療法の根拠は欧米において行われてきた大規模介入試験のevidenceであり、本邦独自のevidenceは皆無に等しい。薬物の吸収・代謝・排泄過程の民族差はもとより、疾病にも民族特異性があり、本邦における独自の介入試験成績は今日の日本にとって不可欠である。何故本邦においてこうした大規模介入試験が行われないのか?現在最も障碍となっているのは無作為盲検試験そのもののあり方である。本邦においては、大規模調査に二重盲検試験を導入することには困難が伴う。唯一残された道は、前向き無作為オープン結果遮蔽試験(Prospective Randomized Open Blinded Endpoint: PROBE試験) である。本研究は、このPROBE試験の中にICメモリー内臓の家庭自己血圧測定および外来血圧測定を導入し、その情報をインターネットによりホストコンピューターに接続することで、被験者、検者のバイアスのかからない血圧情報を基に、ホストコンピューターにより降圧薬の開始、選択、増量、併用、中止が判断され、オープン試験の精度と、信頼性を盲検試験と同等なものにしようとするものである。またオープン試験であることから、検者、被験者ともに試験の内容を知り得、ホストコンピューターの指令とは独立した主治医の判断による高血圧診療の可能性を常に用意し、また既知の有効性の高い降圧薬を使用することで、こうした試験の倫理的側面を克服する事が可能である。本予備試験の完了を見て、多施設オープン試験へ移行する。本研究は降圧薬の左室肥大退縮、脳心血管障害予防に関する本邦におけるevidenceを形作る基礎となることが期待される。
対 象:本試験に参加する医療施設を受診する40才以上80才未満の未治療本態性高血圧症患者(受診時に無治療であるならば、過去に治療を受けた人もすべて対象となります。)、一群3000人、三群で計9000人を対象とする。
実施計画:今日既に生体情報をモデムによりホストコンピューターに転送するシステムは、様々な領域で完成している。本研究は、2〜4週を1単位として被験者により連続的に測定された血圧値が、ICメモリーに貯えられ、その情報をインターネットにより、ホストコンピューターに転送することから始まる。このICメモリーに貯えられた血圧情報は被験者、試験実施者により判読は可能であるが、人為的にこれを操作することは不可能であることが、本研究上極めて大切な点である。以下にアルゴリズムの根拠を示す。
@ 観察終了期に端末からホストコンピューターに転送された血圧情報は集計され、ホストコンピューターにより薬剤投与開始の可否、ランダム化された薬剤の選択が瞬時に試験実施者の端末に伝達される。この登録には、40才以上、80才未満で家庭収縮期血圧135 mmHg以上(収縮期高血圧)あるいは家庭拡張期血圧85 mmHg(拡張期高血圧)のいずれか一方を満たしたものあるいは両者を満たしたもの(収縮期・拡張期高血圧)で、家庭収縮期血圧180 mmHg未満且つ家庭拡張期血圧120 mmHg未満のものである。同時に、随時収縮期血圧220 mmHg未満且つ随時拡張期血圧125 mmHg未満であることが条件付けられ、重症高血圧が除外される。降圧目標レベルは二群とし、一群は家庭収縮期高血圧では135 mmHg未満、125 mmHg以上を、家庭拡張期高血圧では85 mmHg未満、80 mmHg以上を、家庭収縮期・拡張期高血圧では135 mmHg未満且つ85 mmHg未満、125 mmHg以上且つ80 mmHg以上を目標とする。他の一群は、家庭収縮期高血圧では125 mmHg未満、家庭拡張期高血圧では80 mmHg未満を、また家庭収縮期・拡張期高血圧では125 mmHg未満且つ80 mmHg未満を目標とする。但し家庭収縮期血圧110mmHg未満を示す純拡張期高血圧、あるいは家庭拡張期血圧65mmHg未満を示す純収縮期高血圧は登録から除外する。この家庭血圧登録基準は大迫研究の成績による。同時に介入試験で使用されるCa-拮抗薬(Ca-A)、ACE阻害薬(ACE-I)、アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)、α-遮断薬、β-遮断薬(β-B)、利尿薬(D)のいずれに対する禁忌症例も、端末からの情報により除外される。第一選択薬はCa-AあるいはACE-I、あるいはARBとし、コンピューターによりランダムに割り付けられる。この三種の降圧薬は本邦で最も高頻度に使用されているものであり、また降圧有効性も70%以上と高く、これらを第一選択薬として用いる医学的、倫理的根拠となる。
A 登録され、試験の開始された症例は、以下のアルゴリズムで追跡される。 即ち、第一薬(Ca-AあるいはACE-IあるいはARB) の投与により、家庭血圧が降圧目標レベルに降下した場合は、以降副作用、過降圧、昇圧のない限り、この第一薬で追跡する(第一ステップ)。もしも降圧不十分な場合、第一薬は増量される(第二ステップ)。もしも第二ステップで降圧不十分の場合、第三ステップとしてD(第二薬)が投与される。第四ステップはβ-Bあるいはα-遮断薬の投与である。第四ステップにてもなお降圧不十分な際は、他のいずれの降圧薬の併用も可とする。各受診の間に副作用、薬物認容性はホストコンピューターによりチェックされ、試験継続、中止の判断がなされる。なおここに示された降圧治療のアルゴリズムは、1999年のWHO/ISHのガイドラインを踏襲するものであり、日常の高血圧診療の安全性と精度を高めるものではあっても何等リスクを伴うものではない。
B Surrogate endpointとして心エコー上の左室肥大と頸動脈内膜中膜壁厚、primary endpointとして脳心血管発症及び死亡を捉える。従来の報告によれば、Ca-A, ACE-Iともに左室肥大の退縮をもたらし、primary endpointのリスクを減らすことが予想される。そこで本研究ではCa-A, ACE-I,ARBの左室肥大退縮効果、primary endpointに対する効果の同等性を検証する。また二群に分類した降圧目標レベルの差による左室肥大退縮効果、primary endpointに対する効果の差を検証する。Endpointの評価及び結果の分析は、治療内容を遮蔽された独立解析者が行う。これにより評価・分析時のバイアスを除外し得る。
C なお本研究の特徴は、ホストコンピュータにより判断され、治験責任医師に伝えられた命令の受容と拒否の権利を試験責任医師(主治医)に附与することにある。命令に従わない権利は有するが、命令を受容しなかった症例はintension to treat症例として扱われる。